あの日の第二ボタン

入学式からしばらく経っても、優人は悠依の姿を探していた。
特に用事があるわけでもないのに一年生フロアへ向かってしまう。
優人が一年生フロアへ躍り出ると一年生の視線が集中する。

「ねぇ、見て!あれって野球部のエース宮田先輩じゃない?」

「……ほんとだ。あの頭も良くて運動神経抜群の!」

優人は、見惚れる一年生たちに構わず通り抜ける。
しかし、どこにも悠依の姿は見当たらない。

「……そりゃ、いるはずないよね……」

悠依がいることを心のどこかで期待してしまう自分に、優人は腹が立った。

「おう、ひろ!やっぱり新入生にも人気やな。」

優人がため息混じりに階段を降りていると野球部でバッテリーを組んでいる牧野翔輝(まきのしょうき)が話しかけてきた。

「別に、人気とかではないだろ。」

優人は人気であることは全く嬉しくなかった。

「ひろさ、人気なのはええけど、ファンに手ぇなんか出すんとちゃうぞ?」

翔輝は優人を羨ましく思いつつも冗談を言う。

「おれ、そういうの興味ないから。ただ好きだから野球やってんだ。」

からかわれた優人は表情を変えることなくぶっきらぼうに吐き捨てた。

「やっぱ、自分は模範やな……」

翔輝は感心しながら言った。

「それより、今週末の赤塚高校との決勝戦、ひろが先発やって監督言ってたで。」

翔輝が思い出したように続ける。

「聞いたよ。今のうちからコンディション整えとかなきゃな。」

優人の目には炎が灯っていた。