あの日の第二ボタン

「なんで……なんで、私、泣いてるの……何が、こんなに悲しいの……」

悠依は教室のベランダでうずくまって啜り泣いていた。
ベランダを吹き抜ける風は凍てつくように冷たい。

「……先輩……会いたいよ……先輩がいない人生じゃ……私……」

南の空には半月がポツンとひとりでに浮かんでいた。

「ゆいっ?こんなところで何してるの?部活始まっちゃうよ〜」

悠依が顔をあげると、そこには七海が立っていた。

「……ななみこそ、何やってるの?」

悠依は慌てて涙を拭き、無理やり笑顔を作る。

「うちは忘れ物しただけ……もしかしてゆい、泣いてた……?」

「い、いやぁ……」

そう言う悠依の目尻にはきらりと光る水滴が残っていた。

「図星だね。ほんと、ゆいって分かりやすいんだから。」

七海はおかしそうに笑いながら悠依の隣にちょこんと座り込んだ。

「部活、行かなくていいの?」

「なーに言ってんの!親友のピンチと部活、大事な方は決まってるでしょ?」

七海は妙に誇らしげに言った。

「……で、何があったの?」

七海はいつになく優しい声で聞いた。

「私……心が弱くて……どうしたらいいかわかんない……?」

悠依がか弱い声でこぼすと、七海は驚いたように口をぽかんと開けたまましばらく黙り込んだ。

「どうしたらいいって、ゆいはそのままでいいんだよ。それに、男子ってね、そういうか弱さとか、儚い感じに惹かれるもんなの。普段は頭もいいし、フルートも上手くてリーダーシップもある。……それに加えて可愛いとか、ずるいでしょ?」

七海はふふっと笑って続けた。

「うちがひろ、いや、男だったそんなゆいのこと好きになってると思うな……」

悠依は、七海の言葉が嬉しいはずなのに、なぜか胸が締め付けられた。

「……でも、本当に好きな人に、好きになってもらえなかったら、意味ないよ……私、この先もずっと、一人ぼっちなんだよ……」

悠依は涙が溢れて止まらなかった。

「……大丈夫。うちはずっと、ゆいの味方だから。何があっても、絶対応援してる。……きっと、いつか宮田先輩と結ばれるよ。」

悠依は七海の無垢な笑顔を見て、心が軽くなるのを感じた。

「……そうだよね。ありがとう。」

悠依はそう言って立ち上がった。

ふと校庭を見ると、すでに部活を始めた生徒たちの掛け声が風に乗って届いてくる。
いつもの夕暮れの景色が、ほんの少しだけ暖かく見えた。