あの日の第二ボタン

「今回二学期期末、英語ではなんと満点が出ました!」

テスト返却を終えた岡はクラス全体へ向けて高らかと告げた。
クラスメイトがザワザワしお互いの顔を見合わせる中、悠依は100点と書かれた答案用紙を眺め、誇らしげに笑みをこぼした。

休み時間になると七海が悠依のクラスに駆け込んできた。

「ゆいっ!テストどうだった?」

悠依は「待ってました」と言わんばかりに英語のテスト解答用紙をチラッと七海に見せた。
七海は「すごっ」と言って空いた口が塞がらなかった。

「ゆい、長川行けるんじゃない?羨ましすぎるよ……」

「いや、まだまだだよ。今回はちょっと、調子が良かっただけだもん。」

悠依はおごれそうになる自分を押し殺した。

「……これで、少しは先輩に追いつけるかな……」

悠依は窓の外をぼんやりと眺めた。
夏の暑さはすっかり消え、校庭の木々は葉を落としていた。


「先輩、今日は何の日か知ってますか?」

部活が始まる音楽室で悠依がフルートを温めていると、拓真が話しかけてきた。

「何の日って、今日は終業式でしょ?」

悠依は「バカにすんなよ」と言わんばかりに言った。
拓真はそんな悠依の姿を見て満面の笑みをこぼした。

「良かった、先輩は恋愛とは無縁なんですね。今日はクリスマスなんですよ?」

悠依は自分が見定められているようで恥ずかしかった。

「クリスマスだからなんだって言うの?あ、ほらっ、部活始まるよ。」

悠依は時計を指差す。
拓真は時計を一瞥すると笑いながら言った。

「先輩、まだ五分前っすよ?……図星ですね。」

悠依は拓真のことを弱々しく睨みつけた。
拓真は微笑みながら続けた。

「多分先輩は気づいてないかもっすけど、結構モテてますよ。部活も真面目にやってて、フルートだって県内トップレベル。おまけに勉強までできちゃう。完全に高嶺の花ってやつですね。自分らとは生きてる世界が違うんすよ……自分なんて、ただの落ちこぼれで、なんでもできる先輩が羨ましいっす。」

思わず自分の本音が溢れ出して止められない、そんな「後輩」の姿。
悠依は去年の自分を見ているようだった。

「ごめん、ちょっと席外すね……」

悠依はそう吐き捨て、拓真の表情を伺うことなく音楽室を飛び出した。
拓真は悠依の目元で太陽の光が反射するのが見えた。

「……素直じゃないっすね、先輩……」

苦笑いしながら拓真はつぶやいた。