あの日の第二ボタン

「集中力が足りない!校庭外周5周してこい!」

野球部顧問の怒号が響き、優人は校庭の外周に向かう。

「両立ってこんなに大変なのか……」

優人は夜遅くまでのつらい部活と容赦ない課題でまともに寝れない日々を送っていた。
優人は人生で初めて本当の「挫折」を味わった。


チャイムが教室に鳴り響く。
四限の授業が終わり、昼休みが始まる。

「……木曜日の昼休みか……」

優人はふと、去年のことを思い出す。

「……ゆいちゃん、今ごろ何してるかな……?」

優人はため息混じりに呟く。

「えっ?誰、ゆいって?もしかして彼女?」

ぼんやりする優人の独り言にクラスメイトが食いついた。

「ちげぇよ。ただの知り合いだって!」

優人は声を荒げ否定しながらも(……彼女か。なってくれたらいいんだけどな……)と呟く。
窓の外を見ると、桜はすっかり散って、若葉が青々と茂っていた。


優人はベッドに寝転がり、スマホの画面をスクロールしていた。
中高生の間で流行しているSNS、ランスタグルム。
ふと思い立って、優人はランスタグルムのユーザー検索欄に「やまもとゆい」と打ち込んだ。
優人はそれらしきアカウントを見つけたが、フォローしようとする指が止まる。

「……いや、何やってんだ、俺……」

優人は我に帰ってスマートフォンを置いて机に向かう。
そして、教科書を開いた。

「雑念を捨てなきゃ。今の俺に、そんな余裕なんてないや。」