あの日の第二ボタン

「……ホ、ホントに野球部に入るのか?」

野球部の顧問が眉間に皺を寄せながら優人に尋ねる。

「……と、言いますと……?」

優人は顧問の言葉の意味が分からずに尋ね返す。

「野球のヤツはみんなスポーツコースにいるんだ。授業の進度もゆっくりだし、授業数も少ない。そんなヤツらとレギュラー争いをしたって勝算はないぞ?」

顧問は顎を掻きながら言った。

「……それでも僕は、長川で野球をしたいんです……!どうか、お願いします!」

優人は情熱をぶつけた。
顧問は優人の圧に押し負け、顧問は優人の入部を承諾する。

「ただし、俺はスポーツコースの生徒じゃないからと言って手抜きはしないからな。」

優人は「もちろんです」と言わんばかりに深くうなづいた。


「宮田!ボールの掴みが甘いぞ!それじゃ、ゴロ捌く時にポロポロ落としまくるぞ!」

顧問の怒号がグラウンドに響く。
優人は奥歯を噛み締めボールに食らいつく。

新しく入部した一年生は30人。
県内だけでなく、全国レベルの猛者が集っていた。

「……これが全国を狙うチームのレベルか……」

熾烈なライバル争いに優人は闘魂を燃やしていた。

顧問は新入生を集めて喝を入れていた。

「いいか?俺はお前ら30人の中には4種類の人間がいる。一つ目は、才能があって努力できるヤツだ。チャンスがあれば急に試合で使うこともある。二つ目は、才能があるが努力できないヤツだ。そのうち周りに抜かれるかも知れないが、実力で勝っているうちは試合に出れるかも知れないがすぐに落ちぶれるヤツだ。三つ目は、才能はないが努力できるヤツだ。今のレギュラーの大半がこういうヤツだ。そして四つめは、才能がなく努力できないヤツだ。こういうヤツには野球部を辞めてもらう。つまり、ここでは才能云々よりも、努力できる奴が生き残る。ライバルにも、そして自分にも決して負けるな。」

顧問が強い口調で言い終わると「はい!」という野太い声がグラウンドにこだましていた。
遠くの山では蝉がせっかちにも鳴き始めていた。


「……240人中、143位……」

優人は定期テストの結果を見て愕然とした。
今まで三桁の順位なんてとったことがなかった。

「部活やりながら143はすごいよ!」

クラスメイトが優人を励ますが、周りには順位が一桁の生徒もいて優人は焦燥感を覚えた。

「前は、勉強に自信あったのに……今じゃ俺なんかただの落ちこぼれだよ……」

優人はテスト順位表を握りつぶした。