あの日の第二ボタン

入学式を終えたクラスメイトたちはいまだに顔が強張っていた。

「……」

高校生が集まれば賑やかになるのものだが、皆固唾を飲んで時計の針をじっと見つめていた。


ガラガラガラ

担任の教師が教材の山を抱えながら教室に入ってきた。
手に持った山を教卓の上にドスンと置くと無駄に明るく口を開いた。

「はいっ、じゃあ今から自己紹介してもらいまぁす!まず私から。」

すると担任は黒板にチョークで「東名胡実」と名前を書く。

(……国語の先生だ……)

優人は黒板に縦書きされた名前を見て呟く。

担任は名前を書き終わると黒板にチョークでポンと点を書き、チョークを置いた。

「私の名前はアズマ、ナゴミと言います。東名高速道路の名が知れてるからか、トウメイ、ゴミって呼んでる二、三年もいるみたいなんだけど、文節が違ってて、それじゃあ透明なゴミっていう不名誉な名前になっちゃうんでやめてくださぁい。」

東は持ち前の名前ネタを繰り広げたが、緊張する優人たちの前で盛大にスベった。

「……私の担当は国語の現代文で、君たちの授業も担当してます。これからよろしくね。」

恥ずかしさを誤魔化すように東は自己紹介を続けた。

東の自己紹介が終わると今度はクラスメイトが次々に自己紹介をしていった。
やがて優人の番が回ってくる。

 「初めまして、宮田優人です。中学校では野球部に所属していました。高校でも野球を続けるつもりです。よろしくお願いします。」

優人が「野球部」と発するとクラス内でどよめきが起きた。
優人は(さすが強豪校……)と内心驚いた。

「えぇ、じゃあここの因数分解を32番の宮田くん。どうなった?」

教師に指名された優人は返事をして自分の答えを言う。
しかし、不正解らしく教師が首をかしげる。
クラスの後ろの方ではコソコソと話し声が聞こえる。

「そしたら、他の人にも聞いてみようかな……」

次に指名された生徒は何の躊躇いもなく正解の答えを言い放つ。

(……こ、これが、長川高校か……レベルが違うな……)

優人は格の違いをひしひしと感じていた。