あの日の第二ボタン

「新入生、入場。」

司会の教師が意気揚々と告げる。

県内から集まった学力モンスターたちが緊張した面持ちで体育館に入場する。

「ここが、あの長川高校かぁ……」

優人は新品の制服を身にまとい在校生の視線が集中する花道をキョロキョロしながら歩く。
優人は緊張で歩き方すら忘れてしまった。

「皆さんは入学選抜という大きな壁を乗り越えて、今、そこに座っています。しかし、ここがゴールではありません。むしろ、ここからがスタートです。我が長川高校は文武両道を教育目標に掲げています。勉強もスポーツも手を抜くことなく長川高校の生徒として恥のないように高校生活を過ごしてください。」

優人は固唾を飲み込んで校長の言葉を心に刻んだ。


入学式が終わり、優人は教室で大量の教材に名前を書いていた。
新生活に新鮮さを感じつつも、心のどこかに引っ掛かるものがあった。
優人は、心の中でつぶやいた。

（やるしかないのか……）


「やるしかないんです！」

悠依は思わず大声で前に乗り出していた。

「……でも、山本さんの成績だと、厳しいと思いますよ。」

岡は悠依をなだめながら言った。
悠依の隣に腰掛ける母親も深く頷いていた。

「……憧れの人が、いるんです。私の、心の支えになってる、あの人と、同じ高校に行きたいんです！」

悠依の瞳から一筋の涙が溢れる。
反対されるのは分かっていたのに、実際に言われると堪えるものがあった。
悠依は自分の成績がもどかしくて仕方がなかった。