あの日の第二ボタン

悠依は息を大きく吸い込んだ。
年明けの体育倉庫の空気は冷たかった。

「今年も木曜日が楽しみだなぁ……」

悠依はたった二週間の冬休みだったのにこの日が待ち遠しかった。
悠依が体育倉庫に到着した時、まだ優人は来ていなかった。
悠依は当番管理表に名前を書いて優人を待つ。

しかし、待っても待っても優人の姿は現れることはなく、昼休みが終わってしまった。
(まぁ、今までも来なかったことあったし、たまたまだよね……)
悠依は自分に言い聞かせながらも胸がざわつく。

(先輩、何かあったのかな……)
悠依は部活中も優人のことで頭がいっぱいだった。
日が短くなり薄暗くなった校庭を校舎の薄灯りが照らす。
悠依は野球部の様子を伺うが、そこに優人の姿はいなかった。

当然だった。
優人はすでに引退していたのだから。


「こんなんじゃ、ダメだ……」

優人は模試の結果を握りしめた。
秋以降、優人の成績は徐々に右肩下がりになっていた。
焦る気持ちを必死に押し殺す。

優人はものすごい剣幕で職員室へ向かった。

「受験勉強に集中したいので、ボール当番に行かなくても、いいですか?」

優人は柴橋の元で交渉をしていた。

「まぁ、それなら構わんけど……たまには気晴らしで来てくれな?」

受験勉強が理由と聞いて柴橋は断りきれず、渋々認めた。
優人は「ありがとうございます」と一礼をして職員室を後にした。
居心地の悪い場所だった。
できればもう、近づきたくなかった。

悠依は体育倉庫で優人を待っていた。
当番管理表の木曜日の欄には、何週間も悠依の名前だけしか書いていなかった。

「今週は絶対来てくれるはず。」

悠依は自分に言い聞かせて焦る気持ちを隠した。

「多分もう、来ないんじゃないかなぁ。」

柴橋の声がした。
悠依は独り言を聞かれていたのではないかと恥ずかしくなる。

「どうしてですか……?」

悠依の表情が次第に曇る。それを見かねた柴橋は続ける。

「宮田はもう受験モードだからな……」

「そっか、受験か……」

悠依はそう呟き無理やり納得しようとするが、どこか割り切れないものが残った。