パンッ
ピストルの音が校庭に鳴り響き選抜リレーが始まった。
優人は二位でバトンを受け取る。
悠依は最前列で柵から乗り出し優人を目で追う。
優人はじわじわとトップと距離を詰める。
優人は全速力で前の生徒の背中を追う。
その視線の先に悠依が声援を送っているのが見えた。
ゴールテープを切る直前、優人の肩が前に出た。
優人はトップでゴールした。歓声が遅れて聞こえてきた。
優人はゴールした足取りのまま観客席の悠依の元へ近づき両手でハイタッチする。
悠依はビリビリ痛む掌を見つめ笑みを溢す。
悠依はずっとこの余韻に浸っていたいと思った。
運動会の熱狂が覚めてきた十一月中旬、悠依は学園祭の演劇キャストのオーディションに挑んでいた。
主人公の男子であるタクヤがヒロインの女子であるサクラに卒業式に告白して恋人になるという定番の設定だった。
悠依はどうしてもヒロインの役に選ばれたい理由があった。
主人公として優人が選ばれているからだ。
(演劇で結ばれて、そのまま現実でも恋人になっちゃったりして……)
悠依は妄想にふけっていた。
オーディションの結果が発表された。
悠依はヒロインの役には選ばれなかった。
選ばれたのはヒロインの恋敵役ヒナ、優人とは結ばれることのない役柄だった。
しかし、それ以上に悠依が割り切れなかったのは、ヒロイン役に抜擢されたのが咲であることだった。
稽古では優人と咲の絡みが多かった。
悠依には優人と咲が本物のカップルであるかのように見えた。
悠依は日に日に台詞に感情が入り込む。
優人と咲が結ばれるのを本気で止めようとした。
ヒナ:「タクヤは私とサクラ、どっちが好きなの?」
タクヤ:「……そ、それは……ごめん、ヒナ。俺はサクラのことが好きだ。」
ヒナ:「やだっ。そんなの私認めない!ずっと私と楽しそうに話してたじゃん!」
サクラ:「ヒナ!もうやめて!タクヤは私のものなの!邪魔しないで!」
ヒナ:「そんな……」ヒナは涙を浮かべ幕外へ駆け出す。
笑いあり涙ありの演劇は稽古以上の成果が出ていた。
とうとうラストシーンが終わり幕が降りると会場から大きな拍手が湧き上がった。
悠依は優人が演じるタクヤと咲が演じるサクラが結ばれるラストシーンは、涙が溢れて見ることができなかった。
悠依は幕後の役紹介には参加できなかった。
演劇が終わると咲が近寄ってきた。
「ゆいちゃん、お疲れ!迫真の演技だったね。すごかったよ。」
「……ありがとうございます。咲先輩も演技力がすごかったです……」
悠依はそう言いつつも、心の中ではモヤモヤが残っていた。
(このまま咲先輩と優人先輩が結ばれるなんてことないよね……)
悠依は焦る気持ちに支配されていた。
渡り廊下を吹き抜ける風が冷たかった。
もう冬が目前に迫っていた。
気づけばカレンダーも十二月になっていた。
長袖のジャージを着ても肌寒かった。
悠依はかじかむ手で当番管理表に名前を書く。
「おぉ。おつかれぃ!」
優人が声をかけてきた。
「いや、疲れてないで〜す。」
悠依はイタズラな顔で言った。
これが最近の二人の内輪ネタになっていた。
優人は「またかい」と呟きつつも満更でもない様子だった。
そんな二人を冷やかすように冷たい北風が吹き荒れて体育倉庫のシャッターがガタガタと音を立てる。
一番長いはずの二学期も残り一週間を切っていた。
二学期最後の当番は雪がちらつき始めていた。
校庭では、生徒たちが雪に大はしゃぎしていた。
「雪ですね……」
悠依が呟く。
「そうだね、きれい……」
二人は空を見上げる。
吐く息は降る雪と同じくらい真っ白だった。
当番があるなら、曇天も憎くはないと思った。
ピストルの音が校庭に鳴り響き選抜リレーが始まった。
優人は二位でバトンを受け取る。
悠依は最前列で柵から乗り出し優人を目で追う。
優人はじわじわとトップと距離を詰める。
優人は全速力で前の生徒の背中を追う。
その視線の先に悠依が声援を送っているのが見えた。
ゴールテープを切る直前、優人の肩が前に出た。
優人はトップでゴールした。歓声が遅れて聞こえてきた。
優人はゴールした足取りのまま観客席の悠依の元へ近づき両手でハイタッチする。
悠依はビリビリ痛む掌を見つめ笑みを溢す。
悠依はずっとこの余韻に浸っていたいと思った。
運動会の熱狂が覚めてきた十一月中旬、悠依は学園祭の演劇キャストのオーディションに挑んでいた。
主人公の男子であるタクヤがヒロインの女子であるサクラに卒業式に告白して恋人になるという定番の設定だった。
悠依はどうしてもヒロインの役に選ばれたい理由があった。
主人公として優人が選ばれているからだ。
(演劇で結ばれて、そのまま現実でも恋人になっちゃったりして……)
悠依は妄想にふけっていた。
オーディションの結果が発表された。
悠依はヒロインの役には選ばれなかった。
選ばれたのはヒロインの恋敵役ヒナ、優人とは結ばれることのない役柄だった。
しかし、それ以上に悠依が割り切れなかったのは、ヒロイン役に抜擢されたのが咲であることだった。
稽古では優人と咲の絡みが多かった。
悠依には優人と咲が本物のカップルであるかのように見えた。
悠依は日に日に台詞に感情が入り込む。
優人と咲が結ばれるのを本気で止めようとした。
ヒナ:「タクヤは私とサクラ、どっちが好きなの?」
タクヤ:「……そ、それは……ごめん、ヒナ。俺はサクラのことが好きだ。」
ヒナ:「やだっ。そんなの私認めない!ずっと私と楽しそうに話してたじゃん!」
サクラ:「ヒナ!もうやめて!タクヤは私のものなの!邪魔しないで!」
ヒナ:「そんな……」ヒナは涙を浮かべ幕外へ駆け出す。
笑いあり涙ありの演劇は稽古以上の成果が出ていた。
とうとうラストシーンが終わり幕が降りると会場から大きな拍手が湧き上がった。
悠依は優人が演じるタクヤと咲が演じるサクラが結ばれるラストシーンは、涙が溢れて見ることができなかった。
悠依は幕後の役紹介には参加できなかった。
演劇が終わると咲が近寄ってきた。
「ゆいちゃん、お疲れ!迫真の演技だったね。すごかったよ。」
「……ありがとうございます。咲先輩も演技力がすごかったです……」
悠依はそう言いつつも、心の中ではモヤモヤが残っていた。
(このまま咲先輩と優人先輩が結ばれるなんてことないよね……)
悠依は焦る気持ちに支配されていた。
渡り廊下を吹き抜ける風が冷たかった。
もう冬が目前に迫っていた。
気づけばカレンダーも十二月になっていた。
長袖のジャージを着ても肌寒かった。
悠依はかじかむ手で当番管理表に名前を書く。
「おぉ。おつかれぃ!」
優人が声をかけてきた。
「いや、疲れてないで〜す。」
悠依はイタズラな顔で言った。
これが最近の二人の内輪ネタになっていた。
優人は「またかい」と呟きつつも満更でもない様子だった。
そんな二人を冷やかすように冷たい北風が吹き荒れて体育倉庫のシャッターがガタガタと音を立てる。
一番長いはずの二学期も残り一週間を切っていた。
二学期最後の当番は雪がちらつき始めていた。
校庭では、生徒たちが雪に大はしゃぎしていた。
「雪ですね……」
悠依が呟く。
「そうだね、きれい……」
二人は空を見上げる。
吐く息は降る雪と同じくらい真っ白だった。
当番があるなら、曇天も憎くはないと思った。
