あの日の第二ボタン

今週は悠依が先に体育倉庫に来ていた。

(まぁ、嫌いだったら当番には来ないもんな。考えすぎも良くない。)

優人はいつも通りを装う。

悠依はあれから一週間、後悔に苛まれていた。

(なんで、あんな態度取っちゃったんだろう……嫌われたらどうしよう……どうにか誤解を解かないと。)

優人に対してどう接すれば良いのか悩んでいた。

「大丈夫、ですか?なんか、最近、ちょっと元気がない気がする……」

優人は直前まで敬語で話そうか、タメ口で話そうか迷っていて両方が混ざった変な口調になってしまった。

「はい。あ、いや、そんなことないです。全然。」

悠依は優人が自分のことを気にかけてくれたことが嬉しかったが曖昧な返事しかできなかった。

優人は恥ずかしがる悠依のことを可愛らしいと思うと同時にやはり今までと様子が違うことが気になって仕方がなかった。


カランカラン

静寂に包まれた体育倉庫に心なしげに小さく高い音が響く。
音の方に目を向けると当番管理表の鉛筆が落ちていた。
優人と悠依は拾おうと手を伸ばす。

「あっ……」

二人の手が触れ合ってしまう。
時間が止まっているように感じた。


「ちょっと、山本さん!音がズレてる!ちゃんと指で押えなさい!」

「すみません……」

悠依は自分の手を見つめる。
五歳から始めたフルートだが、今日は何故か指が思うように動かない。
昼休みのことを思い出し、今でも心臓が高鳴る。

悠依は音楽室から校庭を見下ろす。
野球部のグラウンドでは優人がノックを受けていた。
太陽に照らされるユニフォームを身にまとい、優人は華麗にゴロを捌く。
帽子を外し、髪を掻き上げ部員と話し笑い合っている。

「かっこいい……」

悠依は思わず声が漏れる。

「野球部、かっこいいよねぇ。でも今は自分の練習に集中しなさい!」

パートリーダーの咲が集中を切らしている悠依に注意する。

「はい、すみません。」

悠依はそう言いつつ「自分も集中してないくせに」と口を曲げる。

悠依はそれからというもの、校庭を見渡せる窓際の席に座って部活の練習に参加するのであった。