君のために紡ぐ夢物語

 数日後、しっかりぶり返した私はホテルに戻ってからずっと寝込んでいた。ミングのことは新聞で大々的に取り上げられ、連日報道がなされた為情報収集は容易だった。
 結論から言うと、宝石はミングに奪われてしまった。彼は事前に別の場所にあった管理室に忍び込んでおり、機械の警備を無効化していた。その上で広場に警官隊を装って現れ、あの煙を巻いた。あの煙は催涙や睡眠作用のあるものを複数同時に使用したものらしく、命の危険があるものではなかったそうだ。そんな煙の中、慌てた警官隊員が発砲、抜刀。結果、怪我を負った警官隊員は複数人いたようだが、すべてミングによるものではなかったそうだ。彼が身につけていた制服類は広場に放置されていた為すぐに回収されたが、銃は携帯しておらず、剣には人を切った形跡がなかったそうだ。


「お粗末ねぇ、機械に頼りすぎたのね。」


 ミナさんは新聞を眺めながらコーヒーを啜った。心なしかその言い方は少し満足気であり、そして誇らしげでもあった。そしてその向かいに座った男性は、困ったように笑った。あの時の警官隊の男性だ。


「ごもっともです。怪我が治り次第、全員扱かれることになってます。」
「宝石が盗まれた割には余裕そうじゃない。」
「警官隊としてはもちろん大打撃ですが、屋外警備がなくなるのは嬉しいってのが正直なところですね。それにあの宝石、いろいろ曰く付きなんですよ。ミングのファンならご存じでしょう?」


 そう笑う男性に、ジンさんは呆れたような顔をする。実はあの翌日、新聞だけではと現地に足を運んだジンさんは、負傷して休まざるを得なくなった彼とバッタリ広場で会ったらしい。そこでウユの警官隊という身分を明かし、情報収集の為に彼をホテルまで連れて来たという訳だ。


「まさか俺に声をかけたあの髭面がミングだったとは、夢にも思わなかったな。完璧な変装だった。」


 敵ながら天晴れといった具合でミングを褒める男性。怪我を負ったというのに、ミングに対する怒りは感じられない。


「ミングのこと、怒ってないんですか…?」


 恐る恐る尋ねると、男性はまたしても困ったように笑った。


「怒るというか、してやられたって感じかな。あの宝石は国の物だから、上層部や市民の一部はカンカンだけど…。この負傷は警官隊の自業自得だからね。日々の鍛錬の甘さが出たなって感じ。ミングが直接原因の負傷者はいないし、怒りはしないかな。悔しくはあるけど。」


 私はその言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
 それからさらに数日後、すっかり体調が良くなった私は荷物を片付けていた。今晩にもこの街を出ることになったのだ。


「どうするの?」


 荷造りを終えたミナさんがソファに腰掛けてこちらを見る。その笑顔は何だかいつもより少し意地悪だ。どうするのとは、今後という意味だろうか。


「バンを、追いかけます。」
「怖いところを目の当たりにしたのに?」
「……それでも、追いかけます。」


 数日、寝込みながら考えた。だけど思い出せるのはやっぱり優しいバンばかりで。先日の宝石の際も彼は自分から人を傷付けなかった。捕まえられるのか。捕まえてどうするのか。私にはまだ分からない。でも、バンにもっと向き合いたい。知らなかったバンがいることは認めた。きっと、まだまだ知らないバンがいる。それを私は知りたい。


「ふぅん。帰るって言い出すかと思ったわ。」
「意地悪はその辺にしとけ。コイツが頑固なのはお前が一番

 ジンさんに咎められて、ミナさんはニヤリと笑った。完全に楽しまれている。


「メグのしたいようにしなさい。もう、充分待ったでしょう。」


 その言葉に、私は笑顔で頷いた。