求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「あははっ! こりゃあ、いいや!」

 これっぽっちも笑えない状況下、スイカを2等分した笑顔になるのが部長だ。

「一体、何がいいんですか?」
「ん? あぁ、茨が隣にいれば僕が笑えるからいいんだよ! あー、お腹痛い」
「お手洗いはあちらみたいですよ?」
「それはどうも」

 気安く肩を叩き、腹部を擦りながらトイレとは逆方向へ歩いていく。
 かたや嫌味を放った相手は呆然としていた。

「お騒がせして、すいません」
「驚いた。朝岡さんでもあんな風に笑うのね。あと口の利き方がカジュアル過ぎない?」
「す、すいません。同期なので」
「あぁ! 同期なの、納得。朝岡さん、いつもニコニコして感じは良いけど、全然楽しそうじゃないというか。ほら、ご実家の件とか?」
「……」
「そろそろじゃない?」

 同意を求められるも知らない振りしておく。社内で朝岡部長の出世のからくりは暗黙の了解であるけれど、肯定したくない。
 一礼し、部長を追い掛けた。

 部長が良い印象を持たれるのは理解できる。ただし、販売のプロフェッショナルが言うのなら部長の笑顔は心からのものじゃないんだろう。

 では部長の笑顔が偽物だとして。わたしに出来る事はある? あるはず無い。というより彼に関わりたくないし、早く帰って眠りたい。