求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫



 駅前にあるインテリアショップは会社が運営し、自社製品を取り扱う。営業部員は販売動向やお客様の反応を確かめるため、顔を出す機会も多い。

「朝岡さん、こんにちは!」

 部長の姿を認識したスタッフが満面の笑みで出迎え、お手本通りの表情でわたしにも会釈する。
 新生活シーズンとあって三階建ての店内は賑わう。寝具はそれなりの価格帯、客層は睡眠に質を求める30代以上か。

「……それでこちらの方は?」

 直営店舗があるのは知っていたが、初めて足を踏み入れた。キョロキョロさまよう視線を指摘されて我に返る。

「申し遅れました! 先日、営業部へ配属となりました茨です」
「あぁ、そうですか。もしかして朝岡さんの彼女さんかと。モデルみたく突っ立ってらっしゃったから」

 これは新米のくせに挨拶をしないと言われている。川口さんからも挨拶は先制するよう指導されていたのに、失態だ。

「あまりイジメないでくれよ? 彼女は営業未経験なんだ。商品説明を兼ね、見学しにきたって訳」
「未経験?」

 そのリアクションも致し方ない。営業部は花形部署、新入社員ならともかく未経験者が組み込まれるイメージはない。

「朝岡さんの恋人と言われた方が納得出来そうです」

 つまり適性が無いとも言われている。

「ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします」
「うわっ、愛想笑いが下手過ぎる!」

 笑顔を作ったものの、ますます厳しい判定(ジャッジ)を浴びる事となった。