求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 嫌味なほど長い足を折り畳み、視線を合わす。切れ長かつ見透かす深い色した瞳に息を飲む。喉が物欲しそうに鳴らないよう眉を寄せておく。

「ごめんね? 君ほどじゃないが、こっちもなりふり構っていられないんだ」
「っ、痛っ!」

 額の前髪を分けられたと思えばーー弾かれていた。

「さっさと支度を整えて出掛けるぞーー休日出勤だ、茨さん」



 入浴を済ませリビングに戻ると室内が温かな食事の香りで満ちている……はずもなく。テーブルの上には無駄にグラスへ移したエナジードリンクがあった。

「……プリサブジとやらを食べるのでは?」
「冷蔵庫が空っぽで作れなかった。じゃがいもは常備しておこうね」
「お言葉ですが、こういう場合は材料を持ち込むんじゃ?」
「次はそうする」
「次なんてあり得ません」
「あるさ。希望は捨てないものだぞ?」
「即刻捨てて下さい」

 ソファーの後ろへ隠したスーツがきっちりハンガーに掛けられている。キッチンで水音をさせるのはお弁当の容器を洗っているんだろう。

「あっ、捨てると言ったら、プラゴミの日は火曜日だっけ?」
「もう! 人の家で勝手するのは止めて下さい!」
「怒らない、怒らない。君の聖域(寝室)には入ってないし。それより入浴後の水分補給をどうぞ」

 空っぽと言われた冷蔵庫だが水は入っている。エナジードリンクを選択したのは含みであり、その理由を察する気にはなれない。

「鍵を置いて帰って下さい。家庭訪問はもう充分でしょう?」
「休日出勤とも言ったよ」

 そう返してくるのは分かっていたのでグラスを手に取り、部長へ差し出す。