求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 声音は責める風に尖っていないものの、こちらを引き続き見ようとしない。通った鼻筋から床へ言葉が滑っていく。埃ひとつもないフローリングが湿った気持ちで曇らされる。

「本当にごめん」
「はは、こういう時に謝られると、こんなにも複雑な気分なんだな? ミントを好きになって僕の中にも色々な気持ちがあるって思い知ったよ」

 背後で恭吾が顔を覆う気配がした。

「泣いてる?」

 キャスター付きの椅子を回転させようとしたが阻まれてしまう。

「まさか、君じゃあるまいし! ほとほと自分に嫌気がさしたって話をしているんだが? いいから前を見てカフェオレ飲みなよ」

 しっしっと追い払う手付きが若干震えていた。

「ねぇ、わたしを見て。目を見て話したい」
「嫌だね。君の前では格好良くありたい、スマートに振る舞いたい。泣き落としで気を引くなんてダサいだろ」
「泣き落としって……泣いてるの?」
「泣いてないって。言葉のあやだろ」

 この広い部屋で縋り、身体を折り畳むとパンドラの箱みたい。今、開けてはいけない宝箱のフタが外れようとしている。

「泣いてないなら顔を上げられるよね?」
「あぁ、上げられる。ただ少し待って」
「なんで?」
「目を瞑って笑顔のイメージトレーニング中なんだよ!」

 そう答えた後はニカッとスイカを8等分した笑顔を向けてきた。