求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「はぁーキスを嫌がるのに抱けるはずないだろ。もういいや、僕も着替えてくる」
「クリーニング代、出すよ。涙で汚しちゃったし」
「鼻水で、だろ? あとボタンも引き千切られた。胸を貸した相手に凶暴すぎない?」
「うっ……ごめんなさい。それとありがとう」
「どういたしまして」

 頭を撫でるのを迷ったのが分かった。犬猫を可愛がる風に触れて誤魔化すと、寝室へ着替えにゆく。

(気にしてないなんて嘘つき)
 当たり前みたくソファーに着席していたが、パソコンが置いてある机へ移動する。ロックの掛かった画面へ自分の誕生日を打ち込めば解除された。
 カフェオレをひとくち含む。牛乳たっぷりの優しい味が全身を温め、また泣きたくなる。

「不用心なのはどっちよ」

 借りたトレーナーからアガーウッドの香りがする。

「ミント? まだ泣いてるのか?」
「面倒くさくてごめんなさい」
「嫌味は言ったが面倒とは言ってない」

 ポンポン、頭を撫でてくる。

「それを飲んだら家まで送る」

 手付きは優しいのに透明な壁を感じた。

「どうした?」
「もっと頭、撫でて」
「はいはい」

 ブラックコーヒーを片手にこちらを見ようとしない。恭吾の視線はモニターへ向けられ、映っていない画面越しにわたしを伺う。

「キスもセックスもさせないから帰すんだ?」 
「ぶはっ! は、はぁ? な、何を?」

 吹き出す恭吾は動揺を隠せていない。