求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「早く言って! あなたの顔面を至近距離で見続けるのは毒なの!」

 なんとか押し返そうと試みるも無駄な抵抗と化す。なし崩しで関係を持ちたくない、そう思うくせ抱き締められるとわたしは弱い。悔しくて、腹立たしくて、やっぱり恭吾が好きで。

「ミントは可愛い」
「可愛いなら泣かせないで!」
「無理」
「なんでよ?」
「泣き顔も悪くないから」

 涙に口付けが落ち、次いで目蓋にも。

 (ごめんなさい、今だけ、今夜だけでいい)
 一体誰に謝ればいいんだろう? 社長や川口さん、面識のある人物の顔が混じり合い、歪む。わたしを睨むみたいに。
 焼けぼっくいに火が付くのが、ままある出来事だとして。わたし達の場合は新しい恋愛へ進めないほど気持ちを残したのがいけなかった。
 せめてこの2年でわたしも相応の努力をしたなら。眠り姫よろしく、王子様の目覚めのキスを待っていただけの自分が情けない。
 つまりわたしが謝るべき人物はーー

「ご、ごめん、恭吾。出来ない、キスは、出来ない!」

 声を上げ、その場へ蹲る。
 わたしにキスをする資格がない。