求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 月の魔力? それとも夜桜の幻想? 離れなきゃいけない相手へ吸い寄せられてしまうのは。
 都合の良い言い訳が甘く漂い、かぶりを振る。
(ちゃんと話をしなければ)
 分かっていても雰囲気に飲まれていく。

「花より団子って諺があるだろ。さ、帰ろう?」
「帰るってあなたの家に?」
「おかえり、ミント」

 恭吾は手を広げ、さぁ飛び込んで来いと合図。ありのままのわたしを受け止める、そんな意味もある仕草だ。

「や、やっぱり駄目だよ! 上司と部下でもあるし?」
「ここまできて常識を語るんだ? この唇は」

 引けた腰を引き寄せ、後頭部を固定する。親指の腹で唇を撫で、スイカを16頭分した笑顔を突き付ける。
 スイカ16等分の笑顔は、弾ける2等分、手本通りの8等分に比べミステリアスで色気を放つ。頭の奥をジンッと痺れさせると理性の巡りをもっと滞らせる。

「わたし達を社長は認めないよ?」
「父の名を出せば萎えるとでも? むしろ燃えるな」
「ーーっ!」

 耳へ悩ましげ、かつ熱い息を吹き込む。

「そうだ。次は僕が質問する番だね」
「こんな時に?」
「こんな時だからこそ聞いておかないと」

 キスの予感を最高潮に達しておきながら焦らす。