求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「惚れた相手がタイプとか、それこそ綺麗事と思われるだろうが、そうとしか言いようがないんだ。ミントは頷いてくれたらいい。他は全部ら僕が引き受ける」

 スイカを何等分にしたのか、断面の判断がつかない仄暗い笑顔で訴えてくる。

「君と離れている間、朝岡の中で自分の意思を通す根回しを1日たりと欠かさなかった。朝岡と関わりたくないと言われればその通りに出来るくらいグループ内を掌握している」

 社長の前でも言っていた。が、これは誤った力の使い方でわたしはこれっぽっちも嬉しくない。

「恭吾……聞いて、お願い」
「だがすまない、ミント。朝岡の後継者を外れる事だけは出来ない」
「恭吾! 聞いてよ」
「あんな父親でも育ててくれた恩や愛情がある、感謝も一応している。裏切れない」
「わたしの気持ちを聞いてって!」

 彼の顔を両手で包む。背伸びし、額と額を合わせる。あぁ、アガーウッドの香りがこんなに近くて遠い。
 わたしは恭吾の纏う香りがお気に入りだった。森の中で深呼吸をするみたく爽やかで、肺が綺麗に満たされるから。

「わたしはあなたに身分や交友関係を手放させたい訳じゃない! 1人で勝手に話を進めないでって言ってるの!」

 いつの間にか前髪に花びらが付いている。取ろうとすると再び手を掴まれ、今度は甘噛みされた。

「顔がアイスで汚れちゃう、やめて。いつから噛み癖がついた? 恋人はいなくともお友達はいたとか?」

 下品な言い回しの自覚ある。すると恭吾の犬歯が咎めるよう動く。

「いるはずないだろ、ミント不足ってやつかな。ここからだと僕の部屋の方が近いよ」
「桜を見るんじゃなかったの?」