求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 顔を上げると食べかけのアイスと笑顔を重ねて見せた。

「『スイカを8等分した笑顔』ってね」
「……覚えてたんだ、そんなこと。でも、わたしも覚えてる」

 意味深に間があく。

「忘れられるはずないだろ」

 手を繋ごうとしてくる気配からパッと離れた。恭吾側に偏った袋から幾つか物が落ちていく。
 彼が屈んでそれらを戻すうち、言ってしまおう。

「川口さんのような女性が恭吾には合っているよ。キャリア思考で、精神的な自立をしている。彼女なら朝岡ホールディングスを一緒に盛り立てていけるでしょ?」

 アイスがドロリと垂れ、自己肯定感のなさと指を伝う。

「確かにそういう女性が好みだった。君に理想を求めた事もあったのも否定しない。だが、ミントは無理なんだろ?」
「うん。だからわたしはあの時、身を引いたの。ううん、身を引いたなんてキレイな別れ方じゃなかったね。恭吾の足手まといにはなりたくなくてーー」
「違うだろ!」

 恭吾は立ち上がった勢いで、わたしを電柱へ押し付ける。

「もう君相手なら理想とかそういう次元じゃない、いい加減分かれよ! 分かってくれ」

 アイスで汚した手を寄せ、躊躇わず口付けた。柔らかな唇の感触は体勢と心のバランスをぐらつかす。
 厚い雲に覆われていたのは満月。彼の肩越しに光を把握した際、まるで狼男と遭遇したように呼吸が止まる。