求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 部長を認識するや否や、モニターを切っていた。すると次はバッグの中の社内用携帯電話が鳴る。
 ちなみに個人の携帯を鳴らさないのがミソ、営業職ならばこの着信に対応せざる得ないからだ。

「……はい。ご用件は? 私用なら切ります」

 よそ行きの声で問う。

「上司の家庭訪問だ」
「いいえ、先程は遊びに来たよと仰いました。では早急にお引き取りください」

 返しつつ、右手で片付けして左手は後ろ髪を梳く。何故かと言うと部長は部屋に入る手段を持っているーー
(そうか! チェーンを!)

 はたと気付き、ダッシュで掛けに行く。が、鍵がカチリッと回る方が早かった。

「それ以上踏み込んだら警察呼びます」

 すかさず廊下の壁へ背を貼り付け、行儀悪く足を向かい側へ伸ばす。これはバリケードだ。断固、入室を拒否する。

「ドアチェーン、掛けないと危ないぞ? 僕が通っていた頃の習慣が抜けてないの? 不用心だな」
「たまたま忘れただけです。ちょうど良い機会なので鍵を返してください」

 警告が効き、部長は玄関で足を止めた。

「鍵?」

 鍵を掲げて、お揃いのままのキーホルダーを見やり首を振る。

「返さない。そもそも僕は君と別れたつもりないし」 
「はぁ? あれから2年経ってますよ?」
「あぁ、2年待ったが君は引っ越してなければ、ベッドも買っていない」
「ーーうっ、確かに引っ越してないしベッドもまだ買えてません。でもそれは部長にこれっぽっちも関係ないです」
「あるさ、大有りだ」

 ここで部長は言葉をいったん切る。