求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 恭吾にわたしのNOを聞かせたくないのは本音だろう。
 元より社長の中でわたしは息子の花嫁候補として対象外、今じゃ眼中にすらない。悪い魔法使いと言うが呪いを掛けることもしない。
 わたしは社長の視界の隅で指をつき、頭を下げる。

「夜も深い。恭吾に家まで送らせよう」
「父さんに言われなくても。ミント、ほら顔をあげて? 君が謝る事はない」

 恭吾と社長の折り合いが良くないのは反骨心によるものと誤解していた。子会社へ入社し一人暮らしするのも父親に認めて貰う計画なのだと。
(わたしを選ぼうとするのが一番の反抗になるなんて)
 恭吾は自分の心さえ見えていない。
(社長からしたら愛息子が茨の鎖で繋がれている風に映るだろう。わたしが悪い魔法使いなんだ)

「ミント?」
「恭吾、送ってくれる?」
「当たり前だろ? タクシーをーー」
「ううん、歩いて帰りたい。話、したい。話をしようよ」

 わたしは俯いたまま、無意識で畳を引っ掻いていた。