求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 部長、朝岡恭吾は結局ワンマン。いい意味でも悪い今までも王子様。
 王子様の言う通りにすれば、わたしはふかふかのベッドの上で暮らせ、おとぎ話みたいな夢を見られる。
 女性のみならず誰もが一度くらい庇護のシーツに包まり明けない夜を願う。働かなくていい、傷付く事も傷付けることも無い世界へ行きたいって。
 恭吾はそんな願望を体現してみせる、自信に満ち満ちていた。

 胸がキュッと軋み、切なくなる。
(馬鹿だよ、恭吾。本当に馬鹿。こういう願望は叶わないからいいのに)

 穏やかな夜へ必死に張り付いていても朝は必ずやってきて、しぶしぶ目を開ける。その時、あなたが隣に居てくれればいい。わたしはそれでいいんだよ。
(これを伝えなかったわたしも馬鹿、本当に馬鹿)

「わたしは」
「よし、お開きにしようか!」

 パンッと手を叩き、社長が中断させた。

「息子が玉砕するのを見ているのは堪える。私はお暇するよ」
「何を今更? 父さんが始めたんじゃないですか!」
「そうなんだがな。なにやら自分が悪い魔法使いにでもなったようで」

 気まずくなると襟足を掻く癖は親子共通か。社長は制止をきかず、身支度を整えた。