求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「昨今、親族経営に対し風当たりは強い。世襲でなく優れた人物へ継がせていくべきと声が多く上がる中、私はあえて恭吾を後継者に指名した。息子はこの先、相当な困難が待ち構えている」

 テーブルの上で指を編む社長と向き合う。ただでさえ居心地が悪いのに、これじゃあ採用面接を受けているよう。

「普通のお嬢さんでは朝岡の名は重荷でしかないだろう。茨さん、あなたが優しい性格なのは話せば伝わる。しかし、優しさだけじゃ乗り越えられない現実があるのだよ」

 社長の辞書では『優しい』は『未熟』と同義。男性としての部長をどう思うか尋ねておきながら答える間を与えない。社長のペースで会話は進む。

「なにより生活環境、物事の価値観の違いは愛情で埋まりきらない。このまま恭吾を想ってくれても、茨さんをいつか傷付けてしまう」
「は、僕の父はいつから占い師になったんですか?」

 やっと部長が口を挟む。

「私にはお前が茨さんに振られるのが見える」

 社長は手元を水晶玉を操る風に膨らめる。部長の皮肉を受けてのジェスチャーだが、わたし達の行く末が見えると言うのはあながち冗談じゃない。

「と、インチキ占い師が言っているが、どうなんだ?」
「そ、それは……」
「僕は君以外との結婚など考えられない」

 対比で部長は何も見えていない。