求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 今でこそ部長は朝岡ホールディングスの跡取りと知れ渡るも、入社当時はわたしと同じく一般社員。朝岡家の名に頼らず下積みした時代を知っている身として聞き流せない。
 カッチン、スイッチが入ったのが自分でも分かる。

「お言葉ですが、部長は社内でとても頑張っていらっしゃいました。部長でなければ成立しない案件は幾つもあったと記憶しています。それに信頼は厚く、部長のもとだから働きたい者もおります!」

 部署へ配属され、彼自身は避けても仕事ぶりはどうしたって無視できなかった。営業部員となった事により、その手腕を見せ付けられた。
 お遊びなんて言葉で茶化さないで欲しい。それはひいては一緒に働く仲間を馬鹿にしている事になる。

「勘違いしないでくれ『君達』を貶める意図はない。言い方を変えようか、私は恭吾に早く落ち着いて貰いたいんだ」
「結婚、という意味でしょうか?」
「今、部下としての評価は聞いた。次はパートナーとしての評価をお聞かせ頂けないかな?」

 朝岡社長は平然と反論をかわす。グループ末端の社員にまでいちいち心を寄せず、努力など当然で論じるに値しないらしい。冷静に本題へすり替える。