求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 額へ手を当てる。

「ミント、大丈夫か?」

 名前を呼ばれ、ますます痛む。

「お父様の前でその呼び方はーー」
「いい。そういうつもりで紹介したい」
「そういうつもりって」
「僕の気持ちは昼間に伝えたはずだが?」

(昼間? エレベーター内の事?)
 そうこられたら得意のおふざけと切り捨てられない。部長の声音はわたしを縛り付けるみたいに重く、逃げ出すのを許さなそう。

「わたしは合意してませんので。仮に、いや万が一合意したとしても酔っぱらって悪口を言う相手は相応しくない。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 否定と謝罪はしておかないと。脳内で点滅する危険信号をスルー、正座したまま拳を握って反省を口にする。
 部長はともかく、彼の父親が気分を害したのは明白だ。

「茨さん、酔いは覚めているのかい?」

 発言が戯言でないか、見極める瞳の形が部長と似ている。
 酔っ払った振りして事態を曖昧にする選択がある、きっとそれがマスト。わたしが一番傷付かないで済む。

「はい」

 しかし、そう答えていた。