求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫



 頭が痛い、あらゆる意味で痛い。お水を含みながら状況を確認する。
 隣に部長、正面に彼の父親が座っていて、一体わたしはどうなってしまうのだろう。
(川口さんと飲んでいて)
 彼女を警戒していたが、この有様。なんならもっと手強い魔法が使えそうな人達に囲まれているじゃないか。
 もくもくと、それでいて行儀良くお茶漬けを食べる部長をちらり伺った。

「食べないのか?」
「え、いや、その前にどうしてこんな事に?」
「君がこちらの店で僕の悪口を言って騒いでいたところ、父が食事へやってきたそうだ」

 こちらを見ようともせず、すました横顔で語る。
(いやいや、そんな覚えはーーある!)

「いやぁ、痛快だったよ! えっとーー」
「茨、です」
「あぁ、茨さん。恭吾が愚息であるのは間違いないが、他人に指摘されるのは初めてで面白かった!」

 なんて言いつつ目が笑っていない。当たり前か、部長に今の会社を退職させてまで跡を継がせたいのだから可愛いに違いない。
 とはいえ猫可愛がりじゃなさそうだけれど。
 親子間に流れる緊張感が、わたしの酔いを残酷なくらい覚ましていく。