求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「玉の輿? スパダリ? バッカじゃないの? あの人は自分勝手でこっちの迷惑なんてこれっぽっちも考えてないんだから!」

 障子の奥から漏れ伝わる、いや響き渡る声にため息をつく。

「さっさと会社を辞めたらいいの!」

 部屋まで案内する女将が気まずそうな目配せをするが、首を振るしかない。

「お騒がせしてすみません。すぐ引き取ります。タクシーの手配をお願いできますか? あぁ、それから水も」
「かしこまりました」

 この先で繰り広げられる惨状、それは部下2人が泥酔しているらしい。
(よりにもよって接待で使う店でトラブル起こすのかよ)
 ガリガリ、襟足を掻いていると下がったはずの女将が再び声を掛けてきた。

「あの、念の為にお伝えしておきますね。本日はお父様もいらっしゃってます」
「父が? 仕事関係でしょうか?」
「いえ、プライベートかと」
「この騒ぎに気付いて?」
「当店はお客様の個人情報に配慮しております。お部屋内の様子が伝わる事は通常ございませんが」
「通常は、ですか」

 そもそもここへ呼び出されたのは彼女達が自分の名を出して騒いでいるからだ。酔っ払いの扱いに長けた女将がわざわざ連絡してきた理由に合点がいく。

「こら君達! いい加減にしないか!」

 躊躇う猶予はないので、さっさと踏み込む。
 そこにはテーブルに突っ伏す川口、彼女へ酒瓶をマイク代わりにして訴えていた茨。予想以上にカオスで文句が途切れてしまう。
 シュッパンッと軽快に放たれた障子を茨は焦点が合わない瞳で瞬く。