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川口さんに連れて来られたのは創作和食店。時刻は19時を回っており、思いのほかスーツ選びに夢中だったらしい。
買い物に長時間付き合ってくれた彼女へごちそうすると考えればーーいや、そう考えても代償は高くつきそうだ。
「ここ、うちが接待で使う店なんですよ。部長が女将さんと懇意にしてて。当日予約も無理を言って入れて貰えました」
「ちなみに社割あります?」
「ある訳ないじゃないですか」
個室へ通され、いかにも高級な雰囲気に怯む。
値段の記載がない品書きを開きつつ、掛け軸や調度品の圧迫感から喉の渇きを覚える。このコンディションで味覚が正常に働くかは怪しい。
「スーツ、そのまま着てきて良かったですね。茨さん、和食お好きですか?」
「えぇ、好きです。こういう店は利用した事ないですが」
「デートでも?」
「はい」
まっすぐ目を見て嘘をつく。本当は部長が和食に限らず、美味しい店へ連れて行ってくれた。当時は奮発したデートという受け止め方であり、よもや彼にとって日常であるなんて思いもしない。
「彼氏はいます?」
「いません。川口さんはいらっしゃいますか? 好きな人」
意図的に『恋人』でなく『片思いの相手』と発言しておく。
そして、川口さんの口角がスイカを8等分した笑顔を作る前に庭へ意識を逃す。
川口さんに連れて来られたのは創作和食店。時刻は19時を回っており、思いのほかスーツ選びに夢中だったらしい。
買い物に長時間付き合ってくれた彼女へごちそうすると考えればーーいや、そう考えても代償は高くつきそうだ。
「ここ、うちが接待で使う店なんですよ。部長が女将さんと懇意にしてて。当日予約も無理を言って入れて貰えました」
「ちなみに社割あります?」
「ある訳ないじゃないですか」
個室へ通され、いかにも高級な雰囲気に怯む。
値段の記載がない品書きを開きつつ、掛け軸や調度品の圧迫感から喉の渇きを覚える。このコンディションで味覚が正常に働くかは怪しい。
「スーツ、そのまま着てきて良かったですね。茨さん、和食お好きですか?」
「えぇ、好きです。こういう店は利用した事ないですが」
「デートでも?」
「はい」
まっすぐ目を見て嘘をつく。本当は部長が和食に限らず、美味しい店へ連れて行ってくれた。当時は奮発したデートという受け止め方であり、よもや彼にとって日常であるなんて思いもしない。
「彼氏はいます?」
「いません。川口さんはいらっしゃいますか? 好きな人」
意図的に『恋人』でなく『片思いの相手』と発言しておく。
そして、川口さんの口角がスイカを8等分した笑顔を作る前に庭へ意識を逃す。

