求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 部長とは極力関わらないよう注意を払っている。歓迎会は辞退したし、ランチミーティングも不参加。交際していた過去を気取られる可能性はかなり低いはず。
(だけど、憶測でも言い触らされたら?)

 本来なら川口さんは教育係をするより、部長の後任として選出されるのを優先すべき時期だ。彼女が出世コースを走らない理由を辿れば分かりやすい目的(ゴール)が見えてくる。
(立つ鳥跡を濁さずを全うできないーーそれは嫌だ!)
 自分がこれまで何の為に目を瞑ってきたか、意味が無くなるのは勘弁願いたい。

「こちらを着用して帰るのは可能でしょえ?」
「ではお召になっていたスーツを袋へお入れしますね」

 購入品をそのまま着ていくというのは珍しくない様子。申し出に対応するスタッフはこう続けた。

「これからお仕事ですか?」
「……まぁ、そういうものかと」

 川口さんはわたし達のやりとりを通り過ぎ、店先で通話を始めた。会話内容は聞こえないが、私服であろうと営業部員の輪郭が伺える。

「頑張って下さいね!」

 スタッフから紙袋を受け取り、頷く。