「どうですか? おかしくはないですか?」

 両手を水平に上げ、試着姿を見て貰う。

「仕事着にとてもお似合いですよ、と言うべきです?」

「営業職に見えればいいので」

「意外! 茨さんって形から入るタイプなんですね。とはいえ、リクルートスーツをいつまで着るんだろうとは思ってました」

「教育係なら注意して下されば……」

「身なりの指摘って言い難いし、嫌われたくないのでしたくないです。朝岡部長がやるべきでは? あ、でも部長、他の人にはしっかり注意してたのになぁ」

 わたしは今、川口さんと一緒にスーツ選びをしている。

 休日、偶然行き合った相手を買い物に付き合わせてしまい申し訳なさはあるが、あのまま帰って不貞寝コースじゃ夢見が悪い。

 改善出来ることはしておく。それが身なりであっても。

 姿見に映る自分を睨む。

 部長と別れてからオシャレやメイクは最低限しかしてない。着飾る楽しさ、それを褒められる嬉しさを失った日常はモノトーン調に落ち着く。

「これは嫌味でもお世辞でもないんですが」

 前置きし、川口さんは続ける。

「茨さん、スタイルいいし、ばっちり決めたら貫禄でますよ」

 ククッとスイカを8等分した笑顔。

「それはどうも、です。仕事に自信がない雰囲気は相手に不安を与えてしまうので」

 側で控えているスタッフへ購入の意思を合図する。川口さんが見立てた一式は決してお安くない。今夜から節約しなくちゃいけないだろう。

「茨さん」

 試着室へ入ろうとする背を呼び止められた。