桜が咲こうと始まりの季節が訪れようが興味ない。それより早く帰って眠りたい。
「一応、君の歓迎会を計画しているんだけど? 予定は?」
「そういうの苦手なので遠慮します」
「大人数が嫌なら僕と二人で……」
部長は会話を切り、出入り口へ意識を向ける。どうやら誰かが戻ってきたみたい。
わたしは彼に座られたデスクの縁をファイルで払う。営業という未知の畑にやってきた訳だが『オーロラベッド』を入手するという目的は揺るがない。
であれば、やることはひとつーー業務だ。
どうやら部長と話す女性がわたしの教育担当となる段取りがついた様子。ヒールを小気味よく鳴らし、こちらへ向かってくる。
「はじめまして川口です。茨さんは暫く私と一緒に仕事をして貰いますね」
「よろしくお願いします」
立ち上がってお辞儀。その際、不躾なまでの値踏みを感じる。
「茨さんって残業を絶対しないイメージですが、そんな人がうち(営業部)でやっていけます?」
「えぇ……頑張ります」
「それにすごく美人なのに愛想がまったくない! 営業職はお客様相手です! クールビューティーキャラは通用しません!」
顔を上げたわたしへ詰め寄り、彼女の後方では部長が肩を震わせていた。
「まずは笑顔の練習しましょう!」
朝岡部長相伝『スイカを8等分した笑顔』を至近距離で展開されると、早く帰って眠りたい気持ちが全身を巡る。
(はぁ、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの)
弱気な思考がちらつき、慌ててギュッと唇を噛む。本当はこんな目に遭う理由に心当たりがあるものの、部長に知れるのは避けたい。
「ほーら笑って下さい!」
促され、口角を必死に釣り上げた。ぴくぴく引きつっているのが分かる。
ついに耐えきれなくなった部長が吹き出す。本気でおかしい時はスイカを2等分したくらい口を開ける癖は健在だ。
春眠暁を覚えずーーこれが夢であればいいのに。
「一応、君の歓迎会を計画しているんだけど? 予定は?」
「そういうの苦手なので遠慮します」
「大人数が嫌なら僕と二人で……」
部長は会話を切り、出入り口へ意識を向ける。どうやら誰かが戻ってきたみたい。
わたしは彼に座られたデスクの縁をファイルで払う。営業という未知の畑にやってきた訳だが『オーロラベッド』を入手するという目的は揺るがない。
であれば、やることはひとつーー業務だ。
どうやら部長と話す女性がわたしの教育担当となる段取りがついた様子。ヒールを小気味よく鳴らし、こちらへ向かってくる。
「はじめまして川口です。茨さんは暫く私と一緒に仕事をして貰いますね」
「よろしくお願いします」
立ち上がってお辞儀。その際、不躾なまでの値踏みを感じる。
「茨さんって残業を絶対しないイメージですが、そんな人がうち(営業部)でやっていけます?」
「えぇ……頑張ります」
「それにすごく美人なのに愛想がまったくない! 営業職はお客様相手です! クールビューティーキャラは通用しません!」
顔を上げたわたしへ詰め寄り、彼女の後方では部長が肩を震わせていた。
「まずは笑顔の練習しましょう!」
朝岡部長相伝『スイカを8等分した笑顔』を至近距離で展開されると、早く帰って眠りたい気持ちが全身を巡る。
(はぁ、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの)
弱気な思考がちらつき、慌ててギュッと唇を噛む。本当はこんな目に遭う理由に心当たりがあるものの、部長に知れるのは避けたい。
「ほーら笑って下さい!」
促され、口角を必死に釣り上げた。ぴくぴく引きつっているのが分かる。
ついに耐えきれなくなった部長が吹き出す。本気でおかしい時はスイカを2等分したくらい口を開ける癖は健在だ。
春眠暁を覚えずーーこれが夢であればいいのに。

