求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「早く寄越せ。男に焦らされる趣味はない」
「せっかくなので彼女も招きたいですね。是非お二人でいらして下さい」

 にっこり微笑まれるので、こちらも営業スマイルで応戦する。

「一連の下り、見ただろ? どうやって同伴させる?」
「謝罪の仕方ならお教えしましたし、口実を作るの得意じゃないですか? 遠慮なさらず私をダシに仲直りされては?」
「君をダシにするなんて不味そうだ」
「そう意固地にならず。惚れた女性に膝をつくのも、なかなか乙ですよ」
「悪いが、僕は店長のようにはなれないな」

 いつまでも無駄話をしてはいられない。会話を切り上げる合図として片手を翳すと、それ以上の言及はしないで店長は売り場へ戻っていく。

 引くべき時に引くバランス感覚、こういう時こそ大切だ。自分にも備わっているはずなのに、特定の対象相手には機能しないのが嬉しくすらある。
 店長とは多少の言い合いくらいじゃ関係値は崩れたりしない。だからこそ、つまらないジョークを言うはずもなく。本気で茨を式へ伴う旨を希望している。
 あの様子だと僕のパートナーとして彼女を招待するのだろう。

「パートナー、ね」

 独り言がやけに耳につく。
 退店する際、スタッフ等は手を振ったり会釈してくれ、それらに応じながら茨を探してしまった。もうここには居ないのに。