求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「さっさとわたしの前からいなくなって下さい、ね。やれやれ随分と嫌われたものだ」

 彼女が去った後、復唱する。ひどい魔法の言葉があったものだ。効果てきめん、動けない。虚勢が溶けてしまいそうになる。

「追い掛けなくていいんですか? 泣いてましたよ」
「甘やかすだけが能じゃないでしょ?」
「厳しくするだけでもいけません。まして恋人ならばデロデロに甘やかすべきかと」
「⋯⋯デロデロ? 鬼店長と恐れられる君からそんな言葉が出てくるとは。結婚して変わった?」

 肩を竦めた。営業部長と直営店の長、立場は違えど気は合う。腹の中を見せられる数少ない相手だったが……。

「結婚はゴールじゃないです。したらしたで新たな課題も見えてくる」

 言いつつ、嬉しそうに薬指を掲げるじゃないか。

「は、惚気なら聞かない」
「忠告ですよ。ひょうひょうと振る舞い、相手を振り回してばかりじゃ見限られます。本気で好きならば床へ頭を擦り付けて謝罪した方がいい」
「土下座? はは、正気? そういう君は出来るの?」
「えぇ、出来ます。土下座くらいで許して貰えるなら何度でもしますし、足だって舐めますね」

 目の前の男が土下座する光景など想像出来ない。部下のミスを謝罪する姿が浮かぶ程度で、本人起因で詫びる機会などほぼ無いだろうに。

「どこぞの営業部長さんみたく中途半端な愛し方、していないので。失うくらいなら何でもしますよ」