求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 胸が苦しい。せっかく寝かしつけた部長を好きだった自分が心の中で暴れ始める。

「い、茨」
「さっさとわたしの前からいなくなって下さい!」

 皮肉にもこんな時だけ上手に笑えてしまう。スイカを8等分した表情に彼は言葉を失っていた。

(ざまぁみろ、わたしだって笑えるんだよ)
 声にせず毒づく。次いでこうも付け足す。
(部長さえいなければ笑える)

 場を去る事にする。よし、帰って寝よう。部長を好きな自分を改めて眠らせなければと踵を返した。
 どうせ部長は追い掛けてきたりしないし、そういう人。彼の隣へ立つには自力でなければいけないから。親切丁寧に導き、お姫様抱っこして同じ景色を見せてくれる性格じゃない。

 店を出て、ずんずん歩く。この顔を見られないスピードで進む。

「あれ、茨さん?」

 ーーあぁ、今日は何処までついてないのか。
 なんと前方のショップから川口さんが出てきた。わたしを見つけ、紙袋を下げた手を振っている。
 無視する訳にはいかず立ち止まれば、彼女は駆け寄ってきた。