求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

「⋯⋯」

 わたしは片足をベッドに上げた状態で固まってしまった。

「あははっ!」

 その姿に部長はスイカを2等分した笑顔になる。
 朝岡部長はトップセールスマン、有能さを多くの者が認める。異例の若さでの出世は彼の実家が関与していても、生まれ持った環境だけで社内地位を維持出来るかというと、そうじゃない。
 どんなピンチも彼の前ではチャンスとして翻る。それを当たり前と振る舞うから周囲は天才と持て囃すがーーそうじゃない。
 

「茨?」
「しないでよ」
「ん?」

 優雅な白鳥が水中では必死に足をばたつかせるのを彼に重ね、わたしだけが泥臭い努力の理解者でありたいと思い上がって本日に至る。

(わたし、バカみたいーーというか、バカ)

「バカにするのもいい加減にしてって言ってるのよ!」

 オーロラベッドが怒りの衝撃を吸収しきれず弾む。

「ヘラヘラ笑って、わたしを何処まで惨めな気分にさせれば気が済む訳? 退職するんでしょう? 立つ鳥跡を濁さずって言うよね? あなたの思い出作りに利用しないでよ!」

 鍵の返却を条件にここへやってきた。だけど我慢の限界。これ以上、部長の笑顔を浴びたら心が保てなくなる。もう嫌だ、帰って眠りたい。

「わたしがどんな気持ちで……」

 湿る目尻を拭う。