求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 2階にもお客さんは滞在している。わざわざ店長が相手をするのは親切心でなく、わたしを客とみなしたからか。
 リクルートスーツ、サイズが合っていないパンプス、時計はーーしていない。高額商品を扱う営業担当として不適切の印を押されたも同然。

「1階のスタッフにも言ったけど、あまりイジメないでくれよ。こんな刺々しい対応されるから他の部下を連れて来れないんだ」
「よく言います。恋人を部署異動させ、実店舗でデートしておいて」
「職権乱用、羨ましい? 店長もしてみたら? 懲戒処分まっしぐらだぞ」
「ご冗談を! 自分はここでまだ馬車馬の如く働かないといけないので」
「あっ、そうそう」

 部長はおもむろにご祝儀袋を取り出す。

「結婚したんだってね? おめでとう! 店長が先に結婚するとは感慨深いな」

 どう感慨深いはさておき、部長はこういう気遣いができる人である。
 店長もこれには毒っ気を抜かれたみたい。

「⋯⋯今日はこれを渡しに?」

 素直に感動している。

「え、違うよ? デートに来たんだ」

 部長はというと真顔で返した。