求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

 メモを取りつつ、部長をさりげなく伺う。ばっちり目が合いニカッと笑いかけられる。

「こら、よそ見しないでちゃんと聞け。俺はもう耳にタコが出来るくらい聞かされた」

 盗み見るつもりはないが気まずい。慌てて視線を戻す。

「耳にタコとは。心外です、朝岡部長」
「いやいや、部下に注意しただけで悪意はないって。彼女はこのベッドの購入を検討しているお客さんでもあるよ? しっかり売り込んだら?」

 やりとりから察するに部長と店長は親しいみたい。
 基本的に部長は誰が相手でも会話を弾ませ、自分のペースへ持ち込む。営業という職種が天職と言ってもいいだろう。
 その一方で気を許す相手に対してはあまり笑顔を向けない傾向がある。まぁ、これは経験則で現在進行系かは分からないが。

「茨さん、オーロラベッドをご所望ですか?」
「え、あ、今すぐじゃなくて! お財布と相談です。あと部屋も今は狭いので」

 さっそく在庫確認を始めようとした店長を止める。

「もちろん冗談です」

 彼はわたしの必死であろう顔に吹き出す。

「我が社の給料形態は身を持って承知しておりますので。こちらは駆け出しの営業さんには手が届かない代物です。
 まず茨さんはベッドをお買い求めになる前にスーツや靴、それから時計を揃えてみては?」