求愛過多な王子と睡眠不足な眠り姫

　目的フロアまで数十秒、目を瞑る。ついでに耳も塞ごうとしたが、手首を掴まれ阻まれてしまう。
　チ、チ、チ、腕時計の刻みがこちらにも伝わって、目蓋の裏へ覗き込むシルエットが浮かぶ。

「バックボーンを話しておかなかったのは悪かったと思ってる」

　聞こえない、聞こえない。

「だからと言って打ち明けた途端、別れ話を切り出されるなんて考えもしなかった」

　指先に力を込められた。

「君なら付いてきてくれると自惚れていたんだ」

　聞こえない、聞こえない。

「ごめん」

　ねぇ、何に対して謝ってるの？
　聞こえていないのだから尋ねない。きっと分かって言っているんでしょうに。

■

　２階では『オーロラベッド』の展示がしてあり、店長直々に商品説明を受けることとなった。これまた実物を見るのは初めてで、なんというか圧倒される。
　ベッドを見て凄みを覚えるなんてーー笑われるかもしれないが、憧れの俳優を目にしたような気分。というのもオーロラベッドを知るきっかけは映画だったから。

「眠り姫の話を知っていますか？」

　話は素材や機能の説明から、名前の由来へ移っていく。

「呪いがかけられ百年の眠りに落ちたお姫様の名前が付けられました。王子様の口付けを待つベッド、というロマンチックなキャッチコピーをつけた時期もありますが」

　実際は『一晩を百年に感じられる深い眠りを提供する』がコンセプトであると教わった。