今夜0時、輝く桜の木の下で

「それで、なんていうか、状態に名前がつかないとみてもらえないんだなって……」

咲夜の声は少し震えていた。

「名前……」

佐藤さんは小さくつぶやいた。

その一瞬で、咲夜はいつもの声をとりもどす。

「インフルエンザとかね」

「なんでちゃかすの」

いつもの調子に戻る咲夜に、佐藤さんの声がわずかに翳った。

「癖になってるのかな……」

その言葉に、咲夜の表情から力が抜けた。

「病気になったときじゃなくて、私が泣いてる時に、心配してほしかったな……」

「今日だって、怒ってほしくなかった」

佐藤さんは何も言わず、ティッシュボックスを咲夜の手の届く位置にそっと置いた。

咲夜は二枚取って、丁寧に折りたたむ。

「こんなん、泣くことじゃないですよね……恥ずかしい」

視線を落としたまま言う。

「それは、咲夜さんが決めることだと思う」

咲夜は、綺麗に折りたたまれたティッシュで、両目を覆った。

しばらくして、佐藤さんは落ち着いた咲夜を自宅まで送り届けた。

真っ暗な空に月が滲んでいた。