今夜0時、輝く桜の木の下で

その日の夜のことだった。

閉店後のカフェで、佐藤さんは一人でレンジフードの掃除をしていた。

キラと家族たちは、とっくに眠りについている。

静かな店内に、換気扇の音だけが低く響いていた。

ドアの鈴の音が鳴る。

佐藤さんが視線を向けると、そこには咲夜が立っていた。

「えっと……散歩してたら、明かりがついてるのが見えて……」

言葉を選ぶように、少し間を置いて咲夜が言う。

佐藤さんは何も聞かず、カウンターの椅子を引いた。

「座る?」

短くそう言う。

咲夜は小さく頷き、腰を下ろす。

「コーヒー飲める? カフェラテにする?」

「あ、えっと……大丈夫ですよ」

少し遠慮がちに咲夜が答える。

「俺も飲むからさ、ついでっていうか……」

「じゃあ、カフェラテで」

「了解」

コーヒーの香りが、ゆっくりと店内に広がっていく。

「はい、どうぞ」

差し出されたカップを受け取りながら、咲夜は軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。佐藤さんは座らないんですか?」

「座るよ、ここに椅子ある」

佐藤さんはカウンターの内側にある椅子に腰掛ける。

「いただきます」

咲夜はカフェラテを、ゆっくりと口に運んだ。

「今日試験だったんでしょ? あいつらが言ってた」

何気ない調子で佐藤さんが言う。

「そうなんです。試験の後ここ来るって、みんなと約束してたんですけど……すっぽかしちゃいました」

視線をカップに落としたまま、咲夜が答える。

「試験ってどうやって受けるの?」

その言葉に、咲夜は少し目を丸くした。

「私、佐藤さんに病気のこと話しましたっけ?」

「……いや、その。俺らの頃とは時代が違うからさ、オンラインとかあるのかなって思って」

少し言い淀みながら、佐藤さんが答える。

「あ、なるほど……」

咲夜は小さく頷いた。

少し考えるようにしてから、視線を落とす。

「病気って? 聞いて大丈夫?」

間を置いて、佐藤さんがそう聞いた。

「全然大丈夫です。大したことじゃないので」

そう言ってから、咲夜はほんの少しだけ間を空けた。

そして、夜光症について話し始めた。