紺の帰り道には、大きな桜の木が一本あった。


その周りにも何本か桜が並んでいる。



その桜の木には「神様が宿っている」と言い伝えられており、
満開の季節であっても、夜にライトアップが行われることはなかった。



だから夜の桜は真っ暗で、人通りもほとんどない。



スマホで時刻を確認すると、まもなく0時になろうとしていた。



紺がタバコに火をつけようとしたその瞬間。



――女性の、驚いたような声が聞こえた。




声がした方を向くと、女性が男に腕を掴まれているのがうっすら見えた。