今夜0時、輝く桜の木の下で

「すみません、遅れました」


店のドアを開け、紺が中へ入ってきた。


「補習お疲れさま」


咲夜が真っ先に声をかける。


「お疲れ、紺」


シローが続ける。


「補習どうだった?」


キラが、にやついた顔で聞いてきた。


「……」


紺は無言のまま、キラの肩に軽く拳を当てた。


「痛っ。なにすんだよ」


「キラだってギリギリだったじゃん」


「免除は免除だし」


「さっきからずっとそれ言ってるよ」


シローが呆れたように言うと、キラは肩をすくめた。


「よーし、みんな揃ったね」


カウンターの奥から、キラの母親が手を叩いた。


「今日は集まってくれてありがとう」


「キラママ、これ」


紺は手にしていた袋を差し出した。


「佐藤さんから預かったやつ」


「あら、ありがとう」


キラの母親は受け取りながら笑う。


「佐藤さんは?」


「着替えてから来るって言ってた」



「了解。じゃあ、先に話しちゃおうか」



一度、四人の顔をゆっくり見渡してから、続けた。


「みんなもうすぐ夏休みでしょ? もし良かったら、うちでアルバイトしませんか?」


「やっぱり」


キラが即座に言う。


「いいんですか? 楽しそうですね」


シローは素直に頷いた。


「やりたいっす」


紺も迷いなく答える。


そう言いながら、無意識に咲夜の方を見る。


咲夜は一瞬だけ迷うように視線を落とし、言葉を探している様子だった。


「あの……誘っていただいて、すごく光栄なんですけど、私……」


咲夜が言い終える前に、キラの母親がそっと手を伸ばし、彼女の手を包み込む。


「営業時間を少し伸ばそうと思ってるの」


声は柔らかかった。


「咲夜ちゃんが、夜の時間に少しだけいてくれたら嬉しいなって。もちろん、無理は禁止よ」


そう言って、紺の方をちらりと見てウインクした。 


「……いいんですか?」


咲夜が少し戸惑いながら聞いた。


「咲夜ちゃんだから、お願いしたいの」


少しの沈黙のあと、咲夜は顔を上げた。


「……ぜひ、お手伝いさせてください」


柔らかな笑顔が、ふっと広がる。


「ありがとう。四人とも」


キラの母親は満足そうに頷いた。


「じゃあ、時給とか詳しい話はこのあとね」


そう言ってから、ぱっと表情を明るくする。


「それと――」


カウンター越しに問いかけた。


「みんな、何飲みたい? なんでも作るわよ」


その時、ドアの鈴が鳴り佐藤さんが戻ってきた。


「戻りました。」


「佐藤さん、おかえり。これからドリンク作るから手伝って」


「了解です」


こうして、四人の夏休みと佐藤さんとカフェで過ごす日々が始まった。