キラが三人の馴れ初めについて話そうとした、その瞬間だった。
カフェのドアが開き、鈴の音が軽く鳴り響く。
「……この話、紺嫌がるんで。また今度にしましょ」
紺とシローが席に戻ってくる気配を察して、キラは咲夜に小声で言った。
咲夜は事情を察したように、静かに頷く。
その二人を横目に、佐藤が下唇を軽く噛みながらドアの方へ向かった。
それから、すぐのことだった。
「何すんだよ、おっさん」
入り口の方から、紺の少し荒れた声が店内に響く。
「ちょっと紺、声大きいよ」
慌ててシローが割って入り、なだめるように言った。
「なに紺、また怒ってんの?」
キラは半分面白がった調子で言いながら、三人のもとへ駆け寄る。
咲夜もその後に続いた。
紺は一言も発さず、佐藤を睨みつけている。
「えっと……」
シローが言葉を選びながら口を開いた。
「俺と紺が入ってきた時に、その……佐藤さんがアルコールスプレーを、紺に……」
シローの説明に、キラと咲夜は同時にきょとんとした。
「え、なんで?」
思わずキラの本音がこぼれる。
「このおっさん、失礼すぎるだろ。マジでクビにした方がいいって」
紺は苛立ちを隠そうともせず、キラに訴えかけた。
「臭いんだよ。店内に匂い持ち込むな。未成年がイキってんじゃねえよ」
佐藤の声は低く、淡々としていた。
「そんなに匂います?」
シローが首をかしげる。
「タバコに鼻が慣れちゃってるのかも……すみません、気をつけます」
「シロー、なに謝ってんだよ。このおっ――」
紺の言葉は、途中で途切れた。
「……けほ」
咲夜が、軽く咳き込んだ。
「咲夜さん、大丈夫ですか?」
紺の表情が、はっきりと変わる。
「大丈夫。ごめん、ちょっと……水……」
咲夜はそう言って、小さく笑った。
「席、戻れますか。すぐ水持ってきます」
咲夜の様子を見て、佐藤は即座に対応した。
「ありがとうございます」
咲夜は軽く頷き、佐藤に促されるまま席へ戻っていった。
「……喫煙したやつは、手洗ってこい」
振り返りながら佐藤が言ったその言葉に、紺は一瞬だけ言い返しかけて、結局黙って従った。
その背中を見送りながら、キラとシローは顔を見合わせる。
「なぁシロー、タバコの匂いってアルコールで消えんの?」
キラが小声で聞く。
「いや……そこまで効果ないと思うけど」
シローも同じ声量で返す。
二人は視線を交わし、静かに吹き出した。
「佐藤さんって、もしかしてバカ?」
キラが言う。
「キラといい勝負かもね。俺も手、洗ってくる」
シローはそう言って、紺の後を追いかけていった。
「なんだよそれ。ひでぇな」
キラはそう呟きながら、何事もなかったように席へ戻っていった。
その日の夜、紺はシローにLINEを送った。
内容は夜光症(NLHS)を発症している人にタバコによる悪影響があるかどうかというものだ。
数十分後に返信がきた。
夜光症の患者は、日中に自然光を浴びることで神経系が長時間興奮状態になるらしい。
その影響で、光刺激だけでなく、空気中の化学物質に対する感受性も一時的に高まる。
タバコの煙に含まれる揮発性成分は、少量でも気道を刺激し、咳や違和感といった反応を引き起こすことがあるそうだ。
症状が軽ければ短時間で治まるが、状態が悪いと、めまいや吐き気などの自律神経症状が出る場合もある。
今日は軽度で済んだから良かったけど…俺ら勉強不足だったね。
紺はその返信に既読だけをつけ、携帯を伏せた。
カフェのドアが開き、鈴の音が軽く鳴り響く。
「……この話、紺嫌がるんで。また今度にしましょ」
紺とシローが席に戻ってくる気配を察して、キラは咲夜に小声で言った。
咲夜は事情を察したように、静かに頷く。
その二人を横目に、佐藤が下唇を軽く噛みながらドアの方へ向かった。
それから、すぐのことだった。
「何すんだよ、おっさん」
入り口の方から、紺の少し荒れた声が店内に響く。
「ちょっと紺、声大きいよ」
慌ててシローが割って入り、なだめるように言った。
「なに紺、また怒ってんの?」
キラは半分面白がった調子で言いながら、三人のもとへ駆け寄る。
咲夜もその後に続いた。
紺は一言も発さず、佐藤を睨みつけている。
「えっと……」
シローが言葉を選びながら口を開いた。
「俺と紺が入ってきた時に、その……佐藤さんがアルコールスプレーを、紺に……」
シローの説明に、キラと咲夜は同時にきょとんとした。
「え、なんで?」
思わずキラの本音がこぼれる。
「このおっさん、失礼すぎるだろ。マジでクビにした方がいいって」
紺は苛立ちを隠そうともせず、キラに訴えかけた。
「臭いんだよ。店内に匂い持ち込むな。未成年がイキってんじゃねえよ」
佐藤の声は低く、淡々としていた。
「そんなに匂います?」
シローが首をかしげる。
「タバコに鼻が慣れちゃってるのかも……すみません、気をつけます」
「シロー、なに謝ってんだよ。このおっ――」
紺の言葉は、途中で途切れた。
「……けほ」
咲夜が、軽く咳き込んだ。
「咲夜さん、大丈夫ですか?」
紺の表情が、はっきりと変わる。
「大丈夫。ごめん、ちょっと……水……」
咲夜はそう言って、小さく笑った。
「席、戻れますか。すぐ水持ってきます」
咲夜の様子を見て、佐藤は即座に対応した。
「ありがとうございます」
咲夜は軽く頷き、佐藤に促されるまま席へ戻っていった。
「……喫煙したやつは、手洗ってこい」
振り返りながら佐藤が言ったその言葉に、紺は一瞬だけ言い返しかけて、結局黙って従った。
その背中を見送りながら、キラとシローは顔を見合わせる。
「なぁシロー、タバコの匂いってアルコールで消えんの?」
キラが小声で聞く。
「いや……そこまで効果ないと思うけど」
シローも同じ声量で返す。
二人は視線を交わし、静かに吹き出した。
「佐藤さんって、もしかしてバカ?」
キラが言う。
「キラといい勝負かもね。俺も手、洗ってくる」
シローはそう言って、紺の後を追いかけていった。
「なんだよそれ。ひでぇな」
キラはそう呟きながら、何事もなかったように席へ戻っていった。
その日の夜、紺はシローにLINEを送った。
内容は夜光症(NLHS)を発症している人にタバコによる悪影響があるかどうかというものだ。
数十分後に返信がきた。
夜光症の患者は、日中に自然光を浴びることで神経系が長時間興奮状態になるらしい。
その影響で、光刺激だけでなく、空気中の化学物質に対する感受性も一時的に高まる。
タバコの煙に含まれる揮発性成分は、少量でも気道を刺激し、咳や違和感といった反応を引き起こすことがあるそうだ。
症状が軽ければ短時間で治まるが、状態が悪いと、めまいや吐き気などの自律神経症状が出る場合もある。
今日は軽度で済んだから良かったけど…俺ら勉強不足だったね。
紺はその返信に既読だけをつけ、携帯を伏せた。


