扉が開くと、やわらかな鈴の音と共にコーヒーの香りが広がった。


「咲夜ちゃん、いらっしゃい!」


キラママの明るい声に、咲夜は笑顔で答える。


「また来ちゃいました」


「咲夜ちゃん、こっち、紺くんいるよ」


キラママが手招きする。


カウンターに紺が1人で座っていた。


会釈する紺を横目に、咲夜は隣の席に腰を下ろす。 


「約束守ってくれたんだね」


「そうっすね」


紺は肩をすくめて、照れくさそうに答える。


「あれ、キラくんとシローくんは?」


紺はそっと奥の席を指さした。


「キラ、これ、昨日もやった問題だよ」


シローは口元に微笑みを浮かべているのに、目に光がなく、どこか鋭い威圧感を放っていた。


「そ、その…ね、寝たら全部忘れちゃって――本当にごめんなさい」


震えながら謝るキラ。


「謝らなくていいよ。何回でも教えてあげるから…でも、ちゃんと聞いててね?」


冷たく微笑むシローにキラは思わずひぃっと身をすくめた。


「あれは、もしかして…」


「キラ、追試ダメだったんすよ。しかもシローの想定より点数低かったみたいで――それでシローのあんな顔に」


紺が苦笑混じりに説明する。


「シローくん、ブラックモード?」


「そうっすね…」


紺も小さくうなずく。


「え、まって、てことは紺くんは――」


ピースサインを見せる紺。


「追試合格でした」


「やったね!おめでとう」
 

咲夜は声を弾ませる。


「ギリギリでしたけどね。マジで咲夜さんのおかげです。ありがとうございました」


紺は照れくさそうに頭をかいた。


「お役に立ててよかったよ」と咲夜は微笑む。


「咲夜ちゃん、何にする?」


キラママが注文を聞く。


「カフェオレください! あと、カスタードプリン――紺くん、プリン好き?」


「好きです」


「じゃあ、プリン2つお願いします」


「はーい、ありがとうね」


キラママがにっこり応じる。


「俺、自分で頼みますよ」


紺が焦った様子で言う。


「いいの。追試合格祝い! 一緒に食べよ。2人にはまた今度で」


咲夜は奥のテーブル席をちらりと見てから、紺に笑いかけた。