シローが咲夜に、最近テストがあったこと、そして紺とキラが担任から「合格するまで追試」と告げられたことを説明した。


「僕が二人いたら、マンツーマンで教えられていいんですけどね」


苦笑しながらシローは言った。


どうやら、理解度のまったく違う二人に同時に教えるのは、なかなか骨が折れるらしい。


「テストの範囲ってどこ?」


咲夜に聞かれて、シローはノートと教科書を開いて見せた。


「数学なんですけど……このへん全部です」


「これなら私でも説明できるよ」


咲夜がさらりと言うと、キラが目を丸くした。


「え、咲夜さん頭良すぎない?!」


「みんなより前に習ったことあるだけだよ」
“私、年上だよ?”と、咲夜は小さく笑った。


その笑みには、どこか柔らかな余裕があった。
 

「じゃあ、咲夜さんは紺をお願いします。僕は――紺くんよりどうしようもないキラの相手するんで」


シローがさらっと言うと、キラがすぐに反応した。


「どういうことだよシロー!」


「事実だよ、キラ。受け入れよっか」


シローの目の奥から、すっと光が消えた。

「ひっ……」
キラは思わず怯んだ。


「よ、よろしくお願いします」


紺が少し緊張したように言うと、咲夜も優しく微笑んだ。


「よろしくお願いします」


カフェのテーブルには、四人のノートとペンが並ぶ。
外はすっかり夜。

咲夜のハニーミルクラテは、次の一口の時にはもう冷めていた。