「咲夜ちゃん、何にする?」
キラママがおしぼりを渡しながら声をかけた。


「えっと、ホットのハニーミルクラテお願いします」
咲夜はやわらかく答え、シローの隣――紺の向かいの席に腰を下ろす。


「咲夜さんでいい? 僕はシローって紺から呼ばれてます」


「俺はキラ!」


「咲夜で大丈夫だよ。シローくんとキラくんね」
咲夜はにこっと笑って挨拶を返した。


「咲夜さんは、紺とはいつから知り合いなの?」


「えっと……昨日から、だよね?」
咲夜は紺の方を見て、少し首を傾げながら言う。


紺が小さくうなずいた。


「昨日って……紺の誕生パーティーの日じゃん。え、どういうことだ?」
キラが目を丸くして身を乗り出す。


「紺くん、昨日誕生日だったの?」
咲夜も驚いたように声を上げた。


「えっと、ざっくり言うと――」
紺は照れくさそうに頭をかきながら、昨日の出来事をかいつまんで話した。


「なるほどね。二人とも大変だったな。咲夜さんも怖かったっしょ」
キラがカフェオレを一口飲みながら言う。


「うん、ちょっぴりね」
咲夜はなんでもなさそうに笑った。


「紺、かっこいいじゃん」
シローがからかうように言うと、紺は思わず視線をそらした。


「はい、お待たせしましたぁ。ハニーミルクラテです」


「ありがとうございます」


キラママが咲夜の前にカップを置いていった。


ふんわりと立ちのぼる湯気に、蜂蜜の甘い香りがのっている。


「みんなは、ここよく来るの?」
咲夜がカップを両手で包みながら尋ねた。


「うん、俺の家だし、しょっちゅう来てるよな」
キラが胸を張るように言う。


「二人がしょっちゅう追試になるからでしょ」
シローが即座にツッコミを入れた。


「追試以外でも来てるし」
紺がむすっとしたように言うと、キラもほっぺを膨らませた。


その様子を見て、シローと咲夜は思わず笑いをこらえた。


カフェの奥では、エスプレッソマシンの音が静かに響いている。


日はほとんど沈み、間接照明のオレンジの光が棚ののグラスを淡く照らしていた。


「咲夜さんは、ここ初めて?」
シローが穏やかな声で聞く。


「うん、前から来たいと思ってたから、今日ようやくって感じ」
咲夜は笑みを浮かべながら答えた。


「これからたくさん来てよ、かーちゃんも喜ぶし」
キラがカウンターの方をちらっと見ながら言う。


「ここ、なんでもうまいっすよ」
紺も小さくうなずいて言葉を添えた。


「それは通っちゃうな〜」
咲夜が微笑むと、三人の笑い声がテーブルの間にやわらかく広がった。


「……あ、そういえば一回スルーしちゃったけど、追試ってなに?」
咲夜が首をかしげながら言うと、キラと紺の動きがぴたりと止まった。