「こんにちは、何名様ですか?」


新しく入ってきた客に、カウンターの奥からキラママが声をかけた。


「ひとりなんですけど、入れますか?」


優しくて可愛らしい、女性の声がした。


その声が耳に届いた瞬間、
紺の指先がストローを回す動きを止めた。


ゆっくりと顔を上げ、入口の方へ目を向ける。


目が合った。


彼女も、紺に気づいたようだった。


「紺くん……だよね?」


「咲夜さん……」


互いに名前を呼ぶ声が、ほんの少し震えていた。


「あら、紺くんのお知り合い? 一緒に座る?」


キラママが明るく声をかける。


「あ、いや……そんな、お邪魔だし」
咲夜は小さく手を振り、遠慮がちに笑った。


「もしよかったら、一緒にどうですか? キラもいいよね?」


シローが気を利かせて言う。



「もちろん! 紺の友達なら大歓迎!」


キラは満面の笑みでピースした。


咲夜は少し戸惑いながらも、


「……じゃあ、お言葉に甘えて」と微笑んだ。



カフェの空気が、少しだけ変わった。
ほんのり甘いコーヒーの香りに、春の温かさが混じるような――そんな空気だった。