縁が無かったから離婚したのに(3K)元旦那と周りがうるさくて困ってます。優秀脳外科医の頭の中をのぞきたい

「もう、手が痛い」

両親が帰る時に手首も解放されグーッと背伸びする。
タオルだったから良い物のこれが鎖とかだったら痕が残ってただろう。

「やっと自由~」

もう脱走も逃走もしようと考えてはない。
退院の許可も出るだろうし何より京祐はこの一般病棟に居ないのが分かったから。

「縁が無かったんだから」と声に出して自由になった身体を起こし小銭入れを持った。

「303の葛城さん大人しくなったの」

おっと私の話題!

「塩谷先生いらしてからは落ち着いたみたい」

ナースステーションの柱の陰に隠れてバレないようにいつ通りすぎようか考える。

(…飲み物は我慢か)

やっと腕が解放されたのに脱走と思われて拘束されても困るし。

「初めて塩谷先生近くで見たけど噂通りの3Kすぎ!一生推せそう」
「分かる!綺麗(K)・勝ち(K)負けどうでも良い・美形(K)」

(どうぞ勝手に推して下さい…)

勝ち負けの(K)は無理がない?
まぁ、看護師さんにも癒しが必要なんだろう。
私みたいな患者も居ますからね。

「でも病室入る前に聞こえたんだけど…葛城さんのご両親にお父さんって言ってたのよね」

「どう言う関係?ご家族の説明とかで使ったんじゃない?だって澪(みお)先生居るし」

「でも三角関係とかない?葛城さん綺麗だけど派手目な顏で塩谷先生誘惑してそう」

私の顏についてはムカつくけどまあ良い。
女が二人集まればこの手の話は盛り上がる。

でも三角関係?とかは引っかかる。

「脱走も気を引く為とか?略奪考えてたりして」

看護師さんの広がる妄想。
これ以上噂されて病院中に広まっても困る。

「ただの!!!高校の先輩、後輩」

咄嗟に話しかけ「ただの」を最後にまた付け加えた。

「葛城さん!聞いて、それよりまた脱走ですか?!」

“勘弁して”って顔に出てるよ…若い看護師さん

「違うわよ!飲み物を買いに!」

勘違いされて独房みたいな病室に入れられても困る。

「先生の許可もなく飲まないで下さい!水が有りましたよね?帰りますよ!」

散々噂しといて謝りもなし?
別に良いか。
彼女達とも近々お別れだしね。

「きちんと横になって下さい…ホントお願いします」

看護師さんに諭され大人しくベッドに横になる。
お願いされるってことは私が脱走した後、彼女も怒られたのかも。

「本当に…」
「分かりました!」

これだけ言われたらね。
看護師さんが出て行ったのを確認してホッと一息ついた。

「澪さんねー」

目覚めて聞いた京祐と星名 澪(ほしな みお)さんと言う人の話。

何でもこの病院長の娘さんらしく京祐と一緒に帰国したらしい。
渡米も一緒で今回婚約を機に戻ってきたと聞いた。

「あんなに慌てて渡米の意味って」

出世の為?
それとも彼女に好意を?
それより浮気してたのか?

「婚約者の病院に元嫁が入院してるとかドラマ?小説?笑える」

二度と会うことないと思った。
離婚の原因は私にもあるから恨みつらみは無いけど。
縁が無くて離婚したのに変な縁で結ばれてしまった。

「考えたって仕方ない」

三年ぶりにあった元旦那を思い出し目を閉じた。


◇◇


退院して一カ月…実家に居づらい。

「このゴミどうすんの?」

「ゴミじゃない!大事な物」

隣の部屋を指差す兄の前に手を大きく広げ粗大ゴミ扱いの私の物をかばっては見るけど…

「掃除出来ないなら出ていけ」

「何で兄貴にそんなこと言われないといけないのよ」

出来ないわけじゃない。
ただやらないだけ!

「圭太(けいた)くん!何でそんなに紅ちゃんを怒るの!退院したばっかりでしょ」

兄嫁の愛(あい)さんが私の為に怒ってくれる。
実家は兄一家と隣同士で朝ご飯は皆んなで集まって食べるのが葛城家のルール。

「もう皆んな朝から元気ね」

母は基本のんびり屋だからいつもこう。

「お前、仕事早く探せよ」

兄は母の玉子焼きを美味しそうに食べ始めた。

なんか雰囲気がおかしい…
いつもなら父親がここで出て来るのに静かに新聞を読んでる。

「探すよ。今日も出かけるから準備したんだから」

事故の日もハローワークに行く途中だった。
今日はきちんと朝から化粧して服も着替えてる。


ーピンポーン


「あら、お父さんいらしたわ」

「おっ、そうだな」

両親二人で玄関にお出迎えに行った。

「朝から誰が来たんだろう」

炊き立てのご飯を頬張る。

「隣の佐藤さんじゃね?」

兄は愛さん特製のお漬物をポリポリ。

「佐藤さん確かご家族で旅行行くって話してたけど…?」

愛さんは私にお味噌汁を渡しながら不思議そう。

「紅、そこ拭いて」

母が先に戻りを渡された布きんで隣の空いたテーブルを拭いてと指示した母はテーブルにご飯とお味噌汁を急いで準備をする。

「遠慮せずに入って」

父がお客さんを部屋に招きいれる声がするけど両親が朝から町内の人やら友人を呼ぶのは今に始まったことじゃない。

「すみません。朝早くに」

「いいのいいの!待ってね。玉子焼くから」

聞こえた声に開いた口が塞がらない。
朝から爽やかに笑みを零し白衣とは違う薄いブルーのサマーセーターを身にまとい
【ザ・和】のうちに優雅に上がり込んだこの男。

「紅!ちょっとお茶お茶!」

お茶が湯飲みから溢れてる。