縁が無かったから離婚したのに(3K)元旦那と周りがうるさくて困ってます。優秀脳外科医の頭の中をのぞきたい

「紅(べに)!走るなって!まだ検査!」

白衣姿の塩谷 京祐(しおや きょうすけ)は珍しく額に汗を滲ませ私と逆側の道路から叫んでる。

「追って来ないでーー!」

葛城 紅(かつらぎ べに)は病院着の裾を翻(ひるがえ)し逃走中。

「いい加減にしろ!」

ウエディングドレスとか白無垢で道路を走るドラマは見たことあるけど
さすがに病院着での逃亡は「I'll be back」で有名な洋画みたいだ。

I'll be back=私は戻る
私は戻りませんよ?
それに未来から来た男に追いかけられてるわけじゃない。

「うるさーーい!タクシー!!!」

走って来たタクシーを停めて飛び乗り
元旦那と元嫁リアル逃走中の火蓋は切って落とされた。



ずずっずー

「美味ッ」

異世界どころか現実を満喫中の私は真っ赤な口紅がよれるのも気にせずうどんをすする。

「ちょっと。ブラウスにスープが飛んでる」

冷めた表情で友人の古田 香織(ふるた かおり)は私をチラ見して水を1口含んだ。

「別に良い」

丼ぶりを口元に持って行きスープをごくごくと飲んでコトリと静かに置いた。

「ブスね」

「私の辞書には無い言葉だね」

「ナポレオンみたいに言わないで」

幼稚園時代からの親友は平気な顔して毒を吐く。
香織の気持ちも分かる。

「私の辞書に不可能はない的な?」

周りから見たら私は美人だ。
透き通るような白い肌(入院してたから)
細くて長い手足(点滴のおかげ)
両親譲りのくっきりはっきりとした目鼻立ち。(これは有難い)

「ホント…残念美人」

三ヶ月前、私は交通事故に遇い傷一つ無いのに目が覚めなかった。

「今さらだけどうどん食べても良いの?」

私の食べっぷりに本当今さらな質問。

「大丈夫!私、身体能力おばけだし」

「そう言うことじゃなくて…」

香織はお冷を持って来て「まあ、あんた逃げ足早いもんね」と笑ってる。

逃げ足はたった今見せつけてきたところ。
病院着のまま飛び出したんだから頭がおかしくなったと多分思われてる。

「あの格好で店に来られてもさー」

香織はちょっとした実業家。
セレクトショップからこの実家のうどん屋さんまで手広く商売をしている。

「珍客来店で今頃お店のホームページ噂…いや炎上してるかもね」

「勘弁してよ…縁起でもないこと言わないで」

【患者が逃げだし逃走から爆走!】とか書かれそう。

「のんきに食べてる場合…?」

「だって伸びるじゃん」

最後のスープも飲み干して一息ついた。

「退院でも外出許可でもないの分かってる?」

「わかってるー」

適当な言葉。

「髪まで切って…」

ほんの二時間前までは黒髪のロング。
バッサリ肩まで切り揃えいつもは化粧っけもない顔に真っ赤な口紅を引いた。

「戦う前準備だし」

「誰と戦う気よ」

「ふふ…復讐をしようかと」

両肘をテーブルに付き指を絡まらせ微笑んだ。
自分なりの悪女になったつもり。

「紅が復讐?一番そう言う事に縁遠い性格じゃない。ちょっと笑わせないでよ~」

結構危ない話してるのに普通こうもっと深く聞こうと思わない?

「前に読んでた異世界に毒されたのね」

ぐうの音も出ません。
全然毒されてないとは言い切れない。

「そうだけど…」

見かけから入るのはいつもの事。
付き合い長いと悲しいほど話が短くて楽。

「紅の復讐劇ってしょーも無さそうで面白い」

「今、何か言わなかった?しょうもないとか」

香織は苦笑いを浮かべ「計画性なしだもんね」と全部行動も考えも読まれてる。

「これから考える」

そう!
計画性ゼロ!
思い立ったら即行動が私。